国際的知的財産権契約の困難性について

国際的知的財産権契約においては日本国内での契約と異なり、契約書を作成するにあたっては条項数を増やす必要があります。国際的知的財産権契約においては言語・慣習などの違いの問題や紛争が発生した際にどのように解決するのか、どこの国の法律を元に契約を解釈するのかなど国内での契約では判断する必要のないことまで判断しなければならないからです。特に国際的知的財産権契約においては契約をある程度専門にした人でさえ、現地の法律や現地の実情を全て把握することの困難性などから一定のリスクを伴います。以下、国際的知的財産権契約の中から中国・タイ契約の留意点について記載させていただきます。

中国での知的財産権契約の留意点

 

1)紛争の解決方法について(裁判による場合)

中国で契約をなす場合、一番最初に思い浮かぶのは、紛争が起きた際の解決方法だと思います。国際契約に少し知識のある方であれば、裁判管轄を日本にするという条項を入れるかもしれません。
 
 この理由はやはり中国の裁判所に対する不信感があるからだと思われます。中国の裁判所は地方保護主義が強く、北京市などの一部都市部では不公正な裁判がされるリスクが減少しているようですが、やはり日本ほどに裁判への信頼性は高くないと思われます。

しかしながら、先の裁判管轄を日本にするという条項には少し問題があります。

なぜなら、裁判管轄を日本にしても日本は中国と判決の執行に関する条約を現状では結んでいないため判決を中国で執行できない可能性が高く、せっかく裁判管轄を日本にして勝訴しても判決の執行段階で無意味なものとなる可能性が高いからです。

従って、中国で契約をなす場合には仲裁の合意を結んだ方が望ましいといえます。

このように国際契約を結ぶ際には法理論のみならず、現実にどうなのかも含めて検討しなければいけないので、紛争解決方法ひとつを検討するにしても慎重に判断する必要があるといえます。

 

)紛争解決の方法について(仲裁による場合)

 

 仲裁とは裁判手続によらずして紛争を解決する手段です。仲裁の合意が当事者間でなされるとたとえ一方当事者が裁判所に訴えを提起しても訴えの利益が欠けるとして訴えが却下されることになります。また、仲裁の場合は先の裁判による場合と異なり、ニューヨーク条約により外国での仲裁判断も執行可能です。中国もニューヨーク条約に加盟しているため中国での契約を結ぶ際には仲裁条項を入れた方が望ましいといえます。

 このように仲裁によって解決を希望する場合、中国はニューヨーク条約加盟国のため裁判と異なり、法令上は執行可能です。しかしながら、中国裁判所の地方保護主義的傾向や裁判官の素養や法令の不備の問題から必ずしも仲裁判断がスムーズに執行されるとは限らないのが現状のようです。

また、中国での仲裁機関による場合(例えば、中国国際経済貿易仲裁委員会CIETAC)は、仲裁申し立て後に仲裁手続を並行して人民法院に財産・証拠の保全の申し立てが可能ですが、外国の仲裁機関による場合は明確な規定がありません。そのため、財産隠しの恐れがある場合は、中国の仲裁機関でないと無意味となる可能性もあるようです。

なお、紛争解決を仲裁によるとした場合、仲裁合意は書面によって仲裁機関、仲裁場所、使用言語、仲裁人の国籍を取り決めておくことが必要であり、仲裁申し立て前に財産の保全措置を行いたい場合は、保全申立を人民法院に対して出来る旨をだめもとで明記しておくことが望ましいと思われます。

 

3)まとめ

以上のように中国での知的財産権契約を締結する場合、紛争解決方法ひとつの条項をとってもどのような形にするのか難しい側面があります。確かに契約書自体は相手企業ともめずに円満にやっている限りはあってもなくても変わりませんが、将来もめた際のリスクを減少させる手段としては事前に将来を見越した契約書を交わすにこしたことはありません。従って中国で契約する際には事前に契約当事者双方の望む契約内容を確認した上でしっかりとしたリスク対策を伴った契約条項を設定する必要があるかと思われます。

 

<参考:中国の契約法について>

 

 中国で知的財産権契約をする際に基本となるのは中国の契約法ですが、中国の契約法は各国の法律を参考にしてできたものなので、日本の民法と基本的には同じものだと考えても問題ないと思われます。しかしながら、例えば以下のような日本の民法にない条項もあります。そのため具体的な契約の際には自社に適用される可能性のある条項が日本の民法とどのように違うのかを念のため確認するのが望ましいかと思われます。

 

(A)雛形的な契約条項(中国契約法39条・40条・41条)

雛形的な契約条項を採用して契約を締結する場合、雛形条項を提供する側は責任の免責などの条項について説明義務を相手方に負うと共に一方的な契約を結ぶなどの一定の場合には無効となります。

  なお、雛形的な契約書とは、例えば、身近なものでいうと銀行の貯金契約やサラ金の消費貸借契約などといった多数人に同一内容で一方的に配布するような契約書などを思い浮かべればよいと思われます。

(B)不安の抗弁権(中国契約法68条)

   不安の抗弁権とは先履行の当事者が相手方の経営状態の悪化等で後の履行に不安がある場合に自分の義務の履行を中止できるとする規定です。日本では解釈上のみで認められているもので条文にはありませんが、中国では条文の一つとして存在しています。

(C)違約金の定め(中国契約法114条)

   日本でも損害の賠償責任の範囲を事前に明確にできることなどを理由に違約金や損害賠償の予定の定めをなすことが行われておりますが、中国でもこの定め自体はなすことができます。しかしながら、日本の場合、違約金や損害賠償の予定の定めをなせばそのままその額が尊重される(民法420条)のに対して中国では額の増減について司法が介入し得る点に違いがあります。そのため、せっかく100万円の違約金や損害賠償の予定を定めても実際上は50万円しかもらえなかったという事態に遭遇することもあり得ますし、逆に違約金や損害賠償の予定額100万円ということで責任リスクを限定したにも関わらず1000万円の支払い義務を負わされることもあり得ます。

(D)第三者の原因による違約責任(中国契約法121条)

   当事者の一方が第三者の原因で違約した場合、相手方に対して違約責任を負うという規定ですが、この規定をこのまま解釈すれば、当事者の一方に過失がなくとも債務不履行責任を負う場合があり得ます。日本の場合は同種の規定がないので、恐らく債務者に過失無しとして債務不履行責任を負わない場合が多いと思われます。

 

<参考2:中国での知的財産権契約についてのその他の注意点>

 

(A)贈収賄罪について

   日本では贈収賄罪は公務員に対するものだけが処罰の対象となりますが、中国では公務員だけでなく、民間企業の役員や企業等に対する贈賄罪も成立します。例えば、中国企業の役員にライセンス契約などの見返りとして贈り物をした場合や企業自体に対してなんらかの利益を付与した場合なども贈賄罪の疑いをかけられる恐れもありますので注意が必要です。そのため、中国企業と取引する際には相手方企業の帳簿にきっちり利益付与などが反映されているのかの確認やそれができない場合は贈賄と疑われない証拠を保存しておくことが肝要だと思われます。

(B)中国の契約締結権者について

中国との契約の際の注意点として誰が契約権限を有するのかは当然に問題となります。契約締結権限があるか否かの判断は、中国での重要な契約の際には法定代表人(董事長、執行董事、総経理)であるかを確認する必要がありますが、確認方法としては中国企業の営業許可証に記載される法定代表人の欄を参照することでできます。また、契約の相手方の担当者が法定代表人でない場合は、その担当者の契約締結権限の有無を法定代表人の委任状の有無などにより確認する必要もあります。

 

タイでの知的財産権契約の留意点

 

1)タイの契約締結権限について

タイでの契約を締結する場合、紛争解決方法についての検討も重要ですが、タイ企業の代表者にそもそも契約締結権限があるか否かも忘れてはいけません。せっかく契約を締結しても相手方に契約締結権限がなければ無意味なものとなる可能性があるからです。そのため、タイで契約をする際にはまず相手に契約締結権限があるかを確認する必要があります。

 

2)タイでの契約締結権限の確認事項・方法について

 

(A)取引相手の法的能力の有無

  タイでは未成年者は日本と同様に法的行為能力はありません。そのためタイ人と契約をする際には基本的なことですが、年齢確認が必要です。年齢確認の方法としては15歳以上のタイ人に取得が義務づけられている身分証明書(IDカード)の写しと日本の住民登録と類似する「タビエンバーン」の写しのコピーの提示を求めることにより可能です。

 

()取引相手の契約締結権限の有無

  タイ企業と取引をなす場合、契約の相手方の契約者に契約締結権限を有することを確認することが重要です。日本でいえば、代表取締役か否かの確認に類似します。確認方法としては、タイの会社の登記簿のコピーをもらうことにより誰が会社を代表するのか(サイン権の有無)を確認することにより可能です。なお、タイの会社の場合、登記された社印をサインと同時に押して代表サインを構成することが多いようです。また、サイン権の登記には、サイン権の限定(契約締結権限の限定等)や制限(契約締結には共同サインが必要等)がある場合がありますので、注意が必要です。登記簿と共に念のため本当にその人物がサイン権者なのか身分証明書の提示やコピーを求めるのも望ましいと思われます。

 

()タイの民商法典について

タイで知的財産権契約を締結する場合、タイの民商法典が主に関わってくることになるかと思いますが、タイの法律は一般におおまかで細かい部分は日本でいう省令や通達といったもので決まっているので、タイでの契約を締結する際には注意が必要です。また、不測の損害を被らないためにもタイの契約法(民商法典)に関する事前の調査も必要です。例えば、日本とタイの契約法の相違点としては以下のようなものがあります。

 

(C−1)タイの契約法の日本の契約法との主な相違点例

 

     民法と商法が統一的な法律として規定されている。

     文書の内容で二つの解釈が成り立つ内容がある時には、結果をもたらす方の解釈を採用する(10条)。

     疑義のある場合、その債権及び債務で不利益を被る側の当事者の益になるように解釈する(11条)

     文書に金額又は量が文字及び数字で記載されている場合で、文字と数字が合致しておらずどちらが真実の意思かはっきりしない場合は、文字の方を基準とする(12条)

     書類がタイ語を含む複数の言語で作成されている場合で内容が言語によって一致せず、当事者がどの言語を規範にしたか明らかでない時にはタイ語を基準とする(14条)

     意思表示の解釈は、口頭又は文字の証言よりも意思の事実関係に注目する(171条)

     一方の当事者がもう一方の当事者の知らない事実又は性質を故意に伝えなかった行為は、その未伝達がなければ法律行為は起こりえなかったと証明できれば詐欺となる(162条)

     無効の行為は追認し合う事はできない(172条)

     法律行為の一部が無効であるときには法律行為はすべて無効となる(172条)

 

 

以上、知的財産契約についていくつか説明させていただきましたが、知的財産契約につ

いてお困りの担当者様はぜひ弊所まで御依頼いただけますと幸甚です。

 

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